救難最後の砦「航空救難団」
皆さんは「航空救難団」という組織を御存知でしょうか。
航空自衛隊の航空機を用いて、危険な任務にあたる航空救難団。
「救難、最後の砦」と呼ばれるその姿を紹介していきます。
航空救難団とは?
航空救難団は航空自衛隊の本部組織にあたる「航空総隊」が直接管理する部隊で、入間基地を司令部として全国4箇所に『輸送隊』、全国10箇所に『救難隊』を配備しています。
『輸送隊』は三沢・入間・春日・那覇に配備され、大型輸送ヘリコプターCH-47Jを用いて全国の基地(特にレーダーサイトなどの僻地)へ輸送任務などを実施している他、大規模災害時の緊急輸送任務や空中消火活動なども担当します。
もう一方の航空救難団・救難隊の任務は
「自衛隊の航空機が墜落した際に、乗員の救助を行う」
つまり航空事故を想定した、専門のレスキュー部隊です。
全国の航空基地では国籍不明機の出現に備え、常にホットスクランブルを5分で行える体制が維持されていますが、その救助を担当する救難隊も常時15分で出動可能な体制が365日維持されています。
しかし自衛隊機は、あらゆる環境で飛行を行います。
山奥・海上、時に雪山でも飛行する自衛隊機は、当然それらの状況で墜落する危険性もある訳です。
それを救助する救難隊もまた、このあらゆる状況下に対応することを求められることになります。
しかし、その編成は非常にシンプルです。
救難隊の航空機
彼等の乗り込む航空機の一つが
BAe125ビジネスジェットベースのU-125A捜索救難機。
暗視レーダーなどの優れた「眼」を持ちます。
事故発生時に現場へ急行して、速やかに位置を特定。
後述するヘリチームへ情報を伝えるほか、必要に応じて救難物資を現場に投下して要救助者をサポートします。
そして、もう一つが
UH-60J救難ヘリコプター。
多用途ヘリコプターUH-60の捜索救難仕様機で、気象レーダー・前方監視赤外線装置(FLIR)などを装備します。
U-125Aが発見した要救助者の元へ向かい、速やかに救助を行います。
一部のUH-60Jは画像のような空中給油対応型になっており、従来型に加えて更に長距離・長時間の任務に対応可能です。
救難隊の装備する航空機は、僅かにこの2種類だけです。
この2機のペアだけで先に述べた山奥・海上・雪山といったあらゆる状況に対応するのが彼等の任務なのです。
中でも、直接救助者の元へ向かう救難員、通称「メディック」は凄まじい技術を必要とします。
航空救難団の要
救難員「メディック」
正確には「救難員」という職種で、UH-60J救難ヘリコプターに乗り込み要救助者の元へ直接向かうことを任務とします。
UH-60Jの乗組員。
右側の空自迷彩を着ているのが救難員・メディック。
空曹、または空士長の志願者の中から選抜された隊員が小牧基地の教育隊で所定の訓練課程を終えることで救難員・メディックとなれますが
水泳検定:クロール500mを12分59秒以内、横潜水25メートル以上、水深4mで呼吸停止30秒以上、立泳ぎ5分以上
体力検定:懸垂10回以上、腕立て伏せ40回以上、腹筋45回以上、かがみ跳躍45回以上、300m走64.9秒以内、重量物(65kg)搬送200m以上
(航空自衛隊HPより抜粋)
最低でもこれだけの身体能力を有していなければ、選抜試験すら受けることが出来ません。
そこから更に選りすぐられた隊員が訓練課程に進みますが、途中での失格・脱落も珍しくないと聞きます。
一般にヘリコプターの救難というと、このようなロープを使った降下を想像されるかと思います。
当然、救難隊も、これを用いた救助を行うのですが彼等はこれに加えて
必要ならば自由降下パラシュートで救助者の元へ降り立ちます。
彼等の行く場所が必ずしもヘリが降りれる、近づけるとは限りません。
しかし、すぐにでも降り立って応急措置を行わなければならない状況もあり得ます。
パラシュート降下技能を修得するため彼等は救難員を目指すための訓練期間中に「第1空挺団」での基本降下訓練も経験します。
(そのため、救難隊員の胸元には空挺隊員と同じ空挺徽章があります)
この他にも洋上での救難を想定した潜水課程や、厳冬期の山岳救難を見越した雪山での過酷な訓練も課されます。
その訓練は「精神の限界を乗り越える、必ず助けるという強い精神力を養う」ことが目的とされることから、過酷に過酷を極め自衛隊の中で最も厳しい訓練と称されることもあるそうです。
更に、極限の環境下に医者や看護師を連れて行くことは出来ないので彼ら自身が要救助者の救命措置も担います。
その為、要救助者を病院まで搬送出来る措置を行えるだけの医療知識も備えており、救急救命士資格を取得している隊員もいます。
まさに文武両道の超人といわれる領域です。
また彼等は有事の際には「コンバット・レスキュー」を受け持ちます。
例えば敵国が日本へ上陸した際に、その防衛戦闘で撃墜された航空機があれば、敵の間近であっても助けにいくのが任務です。
「救難員」であると同時に、「優れたレンジャー隊員」でもあるのです。
救難員を運ぶ
パイロットも凄腕
あらゆる環境に対応するということは当然、航空機もそれに対応しなければなりません。
これは救難隊のU-125AとUH-60Jが併走飛行を披露しているところです。
一見、普通に飛んでいるように見えますがU-125Aは翼が揚力を失う、失速領域ギリギリ、UH-60Jは機体の性能限界ギリギリの最高速度で飛行しないと、同じ速度で飛ぶことは出来ないのです。
つまり、お互い非常にシビアなコントロールを行いながら、速度をしっかり合わせているということになります。
これには非常に高度な操縦技術と連携が必要です。
実際の出動でも風速20mの暴風が吹き荒れる洋上での船からの救助事例などもあり、高度な操縦技能を持っていることが伺えます。
また3人目のクルーとして機上整備員(FE)も重要な役割を果たします。
救助者を機内に収容するホイストの操作は彼等の担当であり、状況に応じてUH-60Jのオートパイロット機能を活かして手元のレバーでホバリング操作を担当する事もあります(クルーホバー)
更に残燃料の計算、搭載機器のモニターなどその仕事は多岐に渡り、救難ヘリコプターが無事に基地へ帰るためには機上整備員の技量が不可欠です。
何故、このような
救難隊が必要か?
彼等の自衛隊における存在は
「どんな過酷な状況に置かれても、必ず助けが来る」
という「安心感」です。
パイロットは時に危険な任務に従事することもあります。
そんな時、助けに来てくれる安心感の有無は、士気に大きく関わるのです。
「救難・最後の砦」
航空救難団・救難隊は自衛隊機の事故対応を主任務としていますが、これ以外での出動事例も多数あります。
一般に救難要請が入ると、警察・消防・海上保安庁などが真っ先に対応しますが、彼等の装備やスキルでは対応しきれない事例が発生した場合、災害派遣扱いで航空救難団に出動要請が掛かることがあります。
特に夜間・悪天候・発生地点が遠いなどの場合、警察や消防の有するヘリコプターでは対処が難しく、大型で航続距離の長いUH-60Jと、あらゆる環境で訓練を重ねている救難隊の隊員達が頼みの綱です。
他の組織では対応出来ない、危険な現場に立ち向かう。
まさに「最後の砦」と言われる所以であります。
また大規模災害では他の自衛隊部隊と同様に災害派遣に出動することも多く、御嶽山噴火・鬼怒川大洪水・東日本大震災などで彼等が出動していました。
また先述した通り、常に15分以内の出動が可能となっていることから、災害発生時の第一陣として救難隊が上がることもあります。
まとめ
最後に彼等の部隊信念を御紹介します。
That others may live
「誰かを生かすために生きろ、かけがえのない命を救うために」
といった意味だそうです。
部隊創設時にお手本とした、米軍の航空救難チームの信念をそのまま使わせてもらっているとのこと。
救難団が配備されている航空祭では例年、航空救難団の飛行展示を行っています。
是非とも一度、ご覧になってみてください。
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