J型・K型・L型 どこが変わったSH-60。乗員の方に聞いてみた。

J型・K型・L型 どこが変わったSH-60。乗員の方に聞いてみた。

海上自衛隊の護衛艦に搭載され、主に対潜哨戒などで活躍するヘリコプターSH-60。

現在数の上で主力となっているのはSH-60Jを改良した二代目にあたるSH-60K。
更に今では開発を終えた最新型のSH-60Lの製造が進み、逆に初期のSH-60Jは配備数を減らしつつありますが、2025年現在ではJ・K・Lの3タイプが同時に配備されていることになります。

一見すると見た目が似ているこの3機種、どんなところが変わったのか、以前3機種が同時に館山で展示される機会があったので乗員の方にお話を聞いてみました。

狭くて低いキャビンは悩みが尽きず・・・J型・SH-60J

まず最初にお話を聞いたのは退役が進み数が少なくなっているSH-60J。

既に関東では実験開発部隊の51航空隊にしか残っておらず、この時展示されていた機体は大村基地・第22航空隊から徳島の小松島基地を経由するルートで長距離フライトで来てくれたとのこと。
(乗員の方曰く「海自のロクマル全部揃えたいとリクエストがあったので、私たちが飛んできました!」)

SH-60Jと言えば、よく聞くのは機体のキャビンの低さと狭さ。

この点聞いてみたところ、やはり

「めちゃくちゃ辛いです(泣」

と即答でのお返事。
対潜哨戒任務では座ってどっしり構えて、というわけにもいかず、この狭い中で時にソノブイなどの重量物も持ってあれこれ動き回らないとならないのでとにかく足腰への負担が凄く

「乗員のほとんどは腰痛か痔が職業病ですよ(苦笑」

・・・本当、辛い中、お疲れ様です・・・

SH-60Jのキャビン。天井の低さが有名だが、狭さもK型以降と比較すると相当窮屈だそう。

でも逆にいいところもあるのでは?と聞いたところ、最初に狭い辛いのお話を聞いてしまったので(話下手ですみません…)すこーし苦笑いしながら教えていただいたのが、まず機器がK型以降に比べてシンプルな点。
これによりK型以降の複雑化した搭載機器と比較すると教育訓練が容易だとのこと。

また意外だったのは
「熟練者が操れば直感的な操作はK型よりも早い」
K型以降の搭載機器は操作もデジタル化が進み、とある操作を呼びだしたい際に
親メニュー → 子メニュー → 孫メニュー
のように一層ずつ辿らなければならないところ、J型であれば直感的に必要なボタンやスイッチを巧みに操作することでダイレクトに呼びだせる仕組みになっているそう。

逆を言えば、乗員の方の経験と技量に依存する部分も多いということですが、玄人好み・職人技が残っている部分を感じました。

キャビンの拡大効果は想像以上。K型・SH-60K

SH-60KはJ型と比較して長さ30cm、高さ15cmほどキャビンが拡大されていることが特徴ですが、この一見僅かな拡張の効果について乗員の方にお話を聞くと「雲泥の差」

特にJ型ではコクピットとキャビンの間は左右に機器が搭載されて真ん中に狭い通路が1本あるだけだったのが、K型では

この通り、機長席(ヘリコプターは進行方向右側が機長)の後ろに非常に大きなスペースが生まれたことで、この空間の有無が機内で動き回る時に相当な負担減となっているそうです。

J型から搭載機器類の性能は大幅に上がっているそうですが、その一方で機器自体はコンパクトになっているところに技術の進歩を感じます。

飛行中は分かりにくいがメインローターブレードの特徴的な形状は、外見で分かるJ型からK型の大きな変化の1つ

アビオニクス冷却用の排気口はJ型が1つだったのに対してK型は2つに。搭載機器が高性能化した分、発熱量の増加が伺える。

変わったのは見た目じゃなくて中身!最新型SH-60L

最後に最新型となるSH-60L。この日は海上自衛隊のテストパイロット部隊である厚木基地・51航空隊から02号機を持ってきてくれていました。

J型→K型へは見た目での変化が大きかったので、やはり展示の度に「見分け方ってあるんですか?」は定番の質問として受けるそうなのですが、この点ずばり

「1カ所しか見た目の違いは無いです」

その1カ所とは機体側面・国籍マーク近くのLWS(レーザー警戒装置)の有無

写真左がL型、写真右がK型。

逆にこの場所以外は本当にK型からほぼ変わっておらず、LWSが見えないと見分けはつかないと思います、と隊員さん談。

SH-60Lで変わったポイントは外見よりも「中身」

搭載機器類やシステムといったところに限らず、エンジンやミッション・ギアボックス・シャフトなどと言った動力系・伝達系周りも堅実に強化されているそう。

「K型から”2度”変わりました」

そんなL型の一見地味ながら強化されたポイントの1つが「テールブレードの操作可能角度」

L型では「26度」まで動かせるようになったそうですが、気になったのでK型は何度だったのか?
51航空隊の隊員さんに聞いてみると「24度」

24度から26度。増えた角度は「2度」

数字で見ると僅かに2度ですが、テールブレードの操作可能量が増えれば、それだけテールブレードで大きなトルクを生み出せるので機体の操舵力向上に大きく貢献しているそうです。

逆に何故K型ではその2度が動かせなかったか?シャフトの問題?ギアの問題?

筆者、元々機械科の出でもあるのでこういった話は気になったので、つい深く聞いてみたところ

テールブレードの操作可能量が増えると大きなトルクが生み出せる
→それに伴いテールブレードまで出力を伝えるシャフトやギアボックスへの負荷も増す
(メインブレード軸から見ると、テールで生まれる力は長いシャフトを曲げるような力になる)
→K型まではそれらが24度の負荷しか耐えられなかったがL型で改良された。

 

見た目には分からない部分ながら、こういった内部の堅実な強化・改良が飛行性能の大幅な向上に繋がっているのも、L型の大きな特徴のようです。