即断即決。戦車乗りの独特の気質。
あらゆる銃弾を跳ね返す重厚な防御力と、分厚い装甲を撃ち抜く強力な火砲を備える戦車。
そんな陸戦の王者・戦車を手足のように動かす乗員達には、独特の『気質』があると言われます。
今回は戦車乗りの独特の気質を解説していきます。
戦車乗りは「果断」
元陸上自衛隊・第71戦車連隊長である木本氏は著書の中で、戦車乗りの性格・気質を一言で言うなら『果断』であると述べています。
『果断』=ためらわずに思い切ってすること、決断力のあること
戦車乗りはとにかく、思い切りが良く、また何をするにも即断即決、判断が早いのが特徴なのだそうです。
これは日本の陸上自衛隊に限らず、古今東西、戦車乗りに共通する気質のようです。
では、何故戦車乗りにはこのような性格・素質が求められるのか。
それは戦車という兵器の特徴と関係しています。
戦車戦は1秒で
勝敗が決する世界
戦車に搭載された戦車砲は、現代の兵器の中でも特に初速が優れた兵器の一つです。
90式戦車に搭載されているラインメタル120mm砲では、その初速はおよそ1600m/s前後と音速の5倍、戦闘機の最高速度の2倍以上となります。
湾岸戦争の際、米軍のM1エイブラムスはイラク軍戦車に対して3000m超の距離から攻撃を仕掛けたと言われていますが、これだけの距離があっても到達までは僅かに2秒前後。
更に戦車戦の鉄則として「初弾必中」があると言われます。
戦闘機の空戦の鉄則として「ファーストルック、ファーストショット、ファーストキル=先に見つけ、先に撃ち、先に撃破しろ」がありますが、戦車の場合も「先手必勝、そして初弾命中」が戦場で生き残るための鉄則なのだそうです。
即ち戦車同士の戦いとは、音速の5倍で飛来する砲弾が、初弾で確実に仕留める意図で放たれる世界。1秒の遅れが生死を左右する過酷な戦いになるのです。
戦車乗りの「果断」という気質は、このような戦車同士の戦い故に生じると言われます。
戦車で一番の
センサーは『眼』
戦車では写真のように、ハッチから身を乗り出している乗員の姿をよく見かけます(なお戦車の上から顔を出しているのは車長)
これは戦車の視野が非常に狭く特に移動時は周囲の状況をよく確認するためという理由もありますが、戦車乗りは時に被弾する恐れのある場所でも、ハッチから顔を出すことにこだわりがあると言われています。
Eyeball sensor Mk.1 Mod.1
Mk1 Eyeball sensor
軍人の間ではこのような言葉が、時にジョークとして、時に真面目に使われるといいます。
すなわち「人間の眼」は非常に優れた観測手段・センサーであるということです。また同時に、自分の五感をフルに活用するからこそ感じ取れるものがあるとも言います。一種の「第六感」ともいうべきものです。
このような『人間の眼』による観測の重要さや、「第六感」ともいうべき戦場の雰囲気を感じ取る能力が非常に重要であるという考えから、車長は危険でもハッチから顔を出す、というのが戦車乗りの考え方のようです。
現代の戦車は過去のそれと比べて、ハイテク化が進んでいますが、それを操るのが人間である限り、このような「人の強み」も引き継がれていくのかもしれません。
※参考資料
- 戦車の戦う技術(著:木本寛明)
- J GroundEX No.5(イカロス出版)
- 陸上自衛隊機甲科全史(著:菊池征男)
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