これは戦車じゃない?戦車と似てるけど違う自衛隊車両①
陸戦の王者とも呼ばれる戦車。
あらゆる対象を打ち抜く主砲と鉄壁の防御を備え、大地を震わせながら突き進むその姿は、まさに圧巻です。
さて、自衛隊車両の中には「これは戦車じゃないの?」という一見見分けがつかない車両が多々あります。
今回は、そんな車両を取り上げ、戦車とは何が違うのか?というところを解説していきます。
戦車の特徴
まずは戦車の特徴について解説していきましょう。
もっとも「戦車」というと、第一次世界大戦の頃に登場した菱形戦車から、第二次大戦中の軽戦車・巡航戦車・重戦車etc…様々なものを含む広義の意味での戦車と、現在の主力であるMBT=主力戦車を指す狭義の意味での戦車、2つの考え方があります。
ここではあくまでも自衛隊の装備について紹介するので、後者の「狭義の戦車」すなわちMBT=主力戦車について解説します。
戦車の大きな特徴である主砲=戦車砲。
戦車砲は口径105mm、または120mmという大型の砲で、主に敵装甲車両を直接照準(発砲する車両が直接相手に狙いを定める)で撃破するものです。
続けて防御性能。
戦車の装甲は極めて強靭で、真正面からであれば敵戦車の戦車砲から放たれた砲弾からも内部を保護出来る強度があります。
更に走行性能は最大で70km/hにも達する上に、キャタピラによって不整地や障害物のある地形でも難なく走破出来ます。
但し、基本的に戦車には最低限の乗員が乗るスペースしかなく、追加の人員を運ぶことは出来ません。
攻撃・防御・移動の3要素が全て詰まった、戦闘に特化した車両が「戦車」なのです。
89式装甲戦闘車
恐らく自衛隊車両の中で、最も「戦車っぽいけど戦車じゃない」車両がこの89式装甲戦闘車、通称89FVだと思います。
89FVは歩兵戦闘車と呼ばれる分類の車両で、戦車との大きな違いは「人をたくさん運べる」という点です。
戦車は非常に強力な戦闘能力を有する車両ですが、視界が悪く小回りが利かないという弱点があります。
これをカバーするために歩兵が共に行動して、戦車の死角をサポートするのですが、当然戦車と共に移動するには車が必要。
しかし戦車と行動するには高い走破能力と、敵との遭遇に備えた攻撃手段も備えていなければならない。
「十分な攻撃能力を備えた、戦車と共に戦う歩兵の移動手段」
という仕事を担当するのが89FVです。
主砲は35mmの機関砲(戦闘機の機関砲が20mm)に79式対舟艇対戦車誘導弾という戦車を攻撃可能なミサイルも備え、乗員3名の他に1個分隊7名の歩兵が乗り込むことが出来ます。
(上画像の車体後部が歩兵乗降用のハッチ)
まとめますと
89式装甲戦闘車と戦車の違い
- 砲は35mmと戦車に比べ小型
- 戦車と違い、乗員以外の歩兵も運べる
自走りゅう弾砲
此方もキャタピラの車体に大きな砲を載せて、一見すると戦車のような外見をしています。
このタイプの車両は「自走りゅう弾砲(榴弾砲)」と呼ばれ、いわば「自力で動き回れる榴弾砲(大砲)」です。
自衛隊では99式自走155mmりゅう弾砲と、75式自走155mmりゅう弾砲、203mm自走りゅう弾砲が配備されています(画像は75式)
一般的な榴弾砲はタイヤこそ付いていますが、移動の際にはトラックなどで牽引してもらう必要があります(FH-70のように短距離なら自走出来るものも)
その為、移動後の設置と再度移動するのには何かと時間が掛かってしまいます。
一箇所に拠点を構えてそこで長時間砲撃を続けるというシチュエーションであれば、これでも困らないのですが、現代ではレーダーによる砲撃弾道の計算(砲弾を撃たれた際にどこから飛んできたか瞬時に割り出す)、偵察手段の発展、長距離攻撃手段の多様化により、砲撃後も同じ場所に留まり続けるのは返り討ちに合うリスクが高く、陣地移動を繰り返しながら戦うのが一般的となっています。
自走りゅう弾砲は、自ら走行することが出来るので、移動をスムーズに行うことが出来るのです。
なお、搭載している砲は155mmと戦車砲よりも大きなサイズですが、間接照準(砲撃手から直接的は見えていない)で放物線を描く軌道で砲撃するのが基本です。
また敵と直接やり合うわけではないので、装甲も乗員を保護する為の最低限しか施されていません。
足回りはタイヤではなくキャタピラですが、専らキャタピラの意義は走行性能ではなくて「砲撃を安定させる」ためであり、最高速度を見ても99式で50km/hほどと戦車よりもだいぶ遅くなっています。
(大型のクレーン車等がキャタピラなのと同じ)
自走りゅう弾砲と戦車の違い
- 砲は戦車より大きいが、直接照準ではなく間接照準で敵を撃つ
- 防御性能は戦車と比べて極めて弱い(直接敵と撃ちあう想定ではない)
- 走行性能も戦車ほど高くない
他にもまだまだ「戦車と似ている」車両がありますが、長くなりますので次週この続編を書きたいと思います。
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