水面下で密かに充電。潜水艦のシュノーケル。

水面下で密かに充電。潜水艦のシュノーケル。

マリンスポーツなどで有名な「シュノーケル」

長い筒を使って、顔を水に付けたまま呼吸が出来る道具ですが、海中に潜んで行動する潜水艦にも「シュノーケル」が存在します。

潜って行動する潜水艦の「シュノーケル」とは何なのか、解説していきます。


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通常動力潜水艦は
充電が必要

潜水艦には大きく分けて原子炉のエネルギーを用いる原子力潜水艦と、それ以外の動力、主に「電池」を用いる通常動力潜水艦の2種類があります。

原子力潜水艦の搭載する原子炉は、核分裂反応が継続する限りエネルギーを常に供給可能です。その為、理論上は海面に姿を現さず延々と海の中で行動を継続できます(ただし潜りっぱなしは乗組員の精神がもたない+新鮮な食料が手に入らないことから、定期的に補給を兼ねて浮上するとのこと)

一方、通常動力潜水艦は主に「電池」でモーターを回す事で行動します。

当然、電池の残量には限りがあります。

これを充電する為にディーゼルエンジンを回すのですが、内燃機関であるディーゼルエンジンは運転の為に酸素が必要です。
艦内の限られた空気ではあっという間に酸素を消費してしまうため、基本的にエンジンを回す際には外の空気を取り込む必要があります。

しかし潜水艦にとって、海面に浮上する=無防備ということ。

何とか姿を隠しながらエンジンを回して充電する方法は無いものか?ということで用いられてるのが「シュノーケル」なのです。

潜水艦のシュノーケル

(画像はシュノーケルではなく潜望鏡)

潜水艦のシュノーケルは「マスト」と言われる上部構造物から、更に高く伸びるような形で設置されています。

一般に潜水艦の水上航行時にはマストが全て見えるような状態となりますが、シュノーケル航行ではマストは水面下に隠れてシュノーケルだけが水面に現れている状態です。

先ほども書いたとおり、海に潜れるのが強みの潜水艦ですが、水面に姿を見せている時は反撃手段すら持たず防御力も貧弱な、ただの「的」です。

故に、シュノーケルマストだけを水面に出して潜航に必要な電池の充電を行う必要があります。

ちなみにシュノーケルでは空気の取り込みは行いますが、エンジンの排気は行いません。潜水艦のエンジン排気は排気圧力で強引に水中へと放出しています。

なおシュノーケルの歴史は古く、ホランド型潜水艦を日本で導入した「第六型潜水艦」の頃には既に登場しています。

もっとも、この頃のシュノーケルはただの筒だった為、海水が艦内に侵入するなど様々な問題があり、改良に改良を経て現在に至っています。

シュノーケル時の
艦内は大忙し

シュノーケルは、浮上する場合に比べて格段に発見される可能性が下がる充電方法ですが、では艦内がまったり出来るかというと、そうもいきません。

まずシュノーケル航法を行うには、一定の深度を常に維持する必要があります。

上がりすぎてしまうとマストが水面に出てしまうし、下がりすぎてしまうとシュノーケルごと水中に沈んでしまう(沈んだ時どうなるかは後述します)

特に海面の波が激しいときには、潜水艦の舵を微調整しながら一定の深度を維持するべく操舵手や潜航指揮官は大忙しとなります。

また、シュノーケルは潜水艦を「探す側」、すなわち対潜哨戒機にとっても絶好の探知チャンスであり、水上に僅かに現れたシュノーケルを探知するべく対水上レーダーで監視しています。

その為、発見される恐れがある場合には速やかに水中に潜らなければいけません。

一定の深度を維持しながら、更に厳重な警戒を行い、いざとなれば速やかに水中に戻る。

シュノーケル時の潜水艦内は、まさに「戦闘中」となります。

鼓膜が破れそうになる?

先ほども書いたとおり、特に波が荒れている日にはシュノーケルが誤って海中に沈んでしまうこともあり得ます。

また沈むまではいかなくても、波飛沫を被って海水が入ってこようとすることもあります。

これを防止する為に、シュノーケルには水を被ると速やかにそれを検知、弁を閉鎖して海水の浸入を防ぐ安全装置が取り付けられているのですが・・・

外から空気を吸えなくなったエンジンは艦内の空気を吸い込もうとするため、シュノーケルの安全弁が閉じると艦内の気圧が急激に低下します。

飛行機で上空に上がると耳が痛くなる、あれと原理は同じですが、それよりも更に激しい気圧の変化です。

その為、潜水艦乗員の必須スキルとして「耳抜き」があるそうです。

また慣れない乗員は耳を傷めることもあるとか。

 

潜水艦の艦内で過ごすのは何かと苦労が絶えないようです。

※参考書籍

  • 潜水艦がまるごと分かる本(メディアックス)
  • 潜水艦のメカニズム完全ガイド(著:佐野正)