装輪榴弾砲とは。自走砲とは何が違う?
先日、防衛装備庁のHPにて装輪155mmりゅう弾砲(旧名称:火力戦闘車)の試作が掲載されました。
自衛隊の装備品としては装輪榴弾砲は初となり、今後の動向が注目されるところであります。
この「装輪榴弾砲」という装備、現在装備されている自走榴弾砲=自走砲とは一体何が違うのか、どのようなメリットがあるのか。
解説していきます。
FH70は牽引式
現在、陸上自衛隊で最も数の多いFH-70 155mmりゅう弾砲は、画像のように限定的な自走能力を有していますが、基本は牽引式です。
移動の際には中砲けん引車・7トントラックが引っ張る形となります。
牽引式の砲は砲自体の作りが簡素になる一方で、作戦地域に到着後、切り離し設置作業へ移行。撤収時には再度、牽引車両を呼んで連結して移動という手順を繰り返すことになります。
現代の砲兵(特科)の戦いは過去のそれと比較して、スピードが命です。
如何に速やかに射撃体勢に移行できるかは勿論ですが、砲撃を実施するということは自らの位置を露呈するということです。
当然、敵は自軍の損失を抑えるために砲陣地を潰す事を試みますので、敵の反撃開始前に離脱して陣地転換をしないと部隊を危険に晒します。
その点で牽引式の砲は戦術機動性が低く、運用に難があるのが現状です。
(FH-70はエンジンで自走出来るが自転車くらいのスピードしか出ない、また砲を収納状態に戻さないと走行出来ない)
また砲自体には装甲はおろか外板も無いので、砲を運用する人員は無防備という欠点もあります。
装軌式の自走砲
装軌式、すなわちキャタピラを履いた自走砲は、けん引式とは違い自らが移動して射撃地点に展開。射撃後は速やかに移動することが可能です。
キャタピラのため不整地における走破能力も確保されている他、それ自体が強力な射撃の反動を吸収できるため、99式自走155mmりゅう弾砲などは駐鋤(ちゅうじょ)無しで射撃することも可能です。
※駐鋤・・・榴弾砲の射撃時に衝撃を吸収するため、地面に食い込ませる「脚」の部分
また大重量を支える事が出来るため、戦車ほどでは無いにせよ一定の防御性能を与えることが出来る他、自動装填装置などの装備類も充実しやすいと言えます。
(自走203mmりゅう弾砲のように、防御性能を持たない砲もあります)
その一方で、キャタピラの欠点として舗装路面における長距離の移動は苦手なシチュエーションです。
また重量も大きい傾向があり、99式自走155mmりゅう弾砲を例に取れば約40トン。これは74式戦車を超える重量となります。
FH-70が10トン、重砲けん引車の約12トンと併せても22トンということを考えると、相当重いことが想像出来るかと思います。
「重い」ということは、それだけ運びにくいということです。
よって高性能で自ら自由に動き回ることが出来る反面、長距離の戦略機動性に難があるのが装軌式自走砲の特徴と言えます。
装輪榴弾砲
装輪榴弾砲は大型トラックの車体をベースとして、その荷台部分に榴弾砲を搭載した形の装備品です。
海外ではフランス製のカエサルなど同様の砲が既に装備されています。
「自走できる砲」として自走砲のカテゴリーには入りますが、装軌式自走砲と比較すると「移動」に重きを置いた砲であると言えます。
キャタピラではなくタイヤになることで
- 不整地での運用に制限が掛かる
- 重量の制限が厳しくなる
- 駐鋤かアウトリガーを用いる必要がある
など、性能は低下しますが一方で
- タイヤにより舗装路面の長距離移動で有利になる
- 全体的に軽量な車体となる(カエサルの場合20トン未満)
というメリットが生まれます。
先ほども書いたとおり「移動」、特に戦略機動性を重視する為にあえてシンプルな機能に抑えた榴弾砲なのです。
陸上自衛隊では北海道・九州などの一部を除いて機甲(戦車)を順次縮小、残る部隊も装輪戦車とも呼ばれる機動戦闘車に切り替えていく計画となっていますが、特科(砲兵)における機動戦闘車のポジションが、この装輪155mmりゅう弾砲であると言えるのではないでしょうか。
※参考資料
- 防衛装備庁HP
- 防衛白書各年度
- 重火器の科学(著:かのよしのり)
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