戦闘機の横風着陸は何ノットまで可能なのか
飛行機の着陸において高度な操縦技量を要求される横風着陸。時に機体を滑走路の中心線から大きく斜めに振りながら降りてきます。
日本航空さんの航空実用辞典によれば
日本航空では滑走路面が乾いた状態のときは25kt,路面が滑りやすくなるにしたがい制限値を小さくしている。メーカー側のテストでは,この値より大きい値を得ている(747-400で30kt)
(航空実用辞典 着陸の項より引用)
http://www.jal.com/ja/jiten/dict/p291.html
旅客機の場合は25kt=風速12.85mが基準となるとのことですが、果たして戦闘機はどれくらいの横風まで着陸することが出来るのか。
各機体のフライトマニュアルより探ってみました。
なお、横風着陸の困難さについては、元イーグルドライバーでもある空飛ぶたぬき先生が解説されている動画がありますので、此方をご覧になると分かりやすいかと思います。
F-16の場合
まずF-16戦闘機の場合を調べてみましょう。
手元にあるT.O GR1F-16CJ-1-1より、横風制限に関する部分を探すと
このような表が見つかります。
左下を原点として、弧で描かれているのが風速。そして縦軸はHEADWIND=向かい風成分で、横軸はCROSSWIND=横風の成分となります。
そして、表の右側を見るとCROSSWIND LIMIT , RCR=4、そして23というのがあります。
RCRは滑走路の摩擦抵抗値のことです。数字が小さければ小さいほど滑走路が滑りやすい状態となります。
先のRCR4は凍結路面、RCR23という値は「乾燥したコンクリート路面」の値となります。先の旅客機の場合でも路面の滑りやすさに言及していましたが、当然戦闘機でも路面状態により影響を受けるのです。
読み解く要素が揃いましたので、先の表を読み直すと。
RCR=23、乾燥したコンクリート路面の際の横風制限は
約25ktで風速12.85m。
RCR=4、凍結路面の際は
約20ktで風速10.28m。
これがF-16戦闘機の横風制限となります。
乾燥路面に限って言えば、日本航空が設けている横風基準と、ほぼ同じであると言えます。
ただし「機体の性能として可能」であり、運用者側で設けた安全率などを余分に設けているのであれば違う値もあり得るのはご了承下さい。
正確には言及できませんが、F-16をベースとしたF-2戦闘機についても、これに近い値が出るのではないかなと思います(航空自衛隊機はマニュアルが手に入りませんので・・・)
F/A-18 E/Fの場合
NATOPSのマニュアルを探していくと、以下のような記載があります。
During flight test, three crosswind landing techniques were evaluated:full-crab-to-touchdown, half-crab-kickout, and wing-down-top-rudder. In general, the half-crab-kickout technique works best and is recommended for all crosswinds up to 30 knots; the full-crab-to-touchdown technique is acceptable for moderate crosswinds only; and the wing-down-top-rudder technique is not recommended.
この文章より飛行試験において30ktの横風着陸をクリアしていると読み取れます。
なおフライトマニュアルには、先のF-16のような表はありませんでしたので、F/A-18 E/Fの横風着陸制限は「最大30kt」というところまでしか分かりません。
F-4E ファントムの場合
ファントムの場合は、また少し事情が違うようです。
AIRCRAFT IS RESTRICTED TO 25 KNOTS…の文面から、ファントムの場合は25ktが上限値であると考えられます。
ただし表自体がRECOMMENDEDとなっているので、あくまでも「推奨値」ということでしょう。
先のF/A-18と比較して、若干低い値となっていますが、恐らくは大きな上反角の付いた主翼による影響ではないでしょうか。
上反角がある翼は横風を受けると、機体を傾けようとする力が生じてしまうのです。
さて、先の表に戻るとRCRが高い=路面状態が良好な状態は20kt近くまで
NO RESTRICTION=無制限
となっています。
そこから条件が悪化すると
SINGLE PLANE LANDING=単機での着陸のみ
更に条件が悪くなると
NORMAL LANDING UNSAFE
USE APPROACH END
ENGAGEMENT ONLY
となってます。
APPROACH END ENGAGEMENTは着陸拘束装置、いわゆるアレスティングワイヤのことのようです。
つまり「普通の着陸は危険。着陸拘束装置使用の場合のみ着陸可能」となります。
以上3機種の事例で見てみました。
機種によって違いはあれど、概ね乾燥路面状態において20ktから最大30kt程度と、旅客機の横風制限のそれと大きな差は無いようです。
旅客機が着陸可能な状況であれば、戦闘機も問題なく降りれるということですね。
参考資料
※TO-1F-4E-1 FLIGHTMANUAL F-4E
※NATOPS FLIGHT MANUAL F/A-18 E/F
※T.O GR1F-16CJ-1-1 FLIGHT MANUAL F-16C/D
コメントを書く