【仕事に役立つ軍事学】時代が変わっても通用する「戦いの9原則」
古今東西、名将・名参謀と言われた指導者・軍人は多くいますが、それらを研究していくと戦いには幾つかの原則があることが分かっています。
長年、経験則や集合知としての性格が強かったこれらの原則は、後にイギリス陸軍の将校・J.F.Cフラーにより「戦いの原則」として纏め上げられました。
更に戦いの原則は改良を経て、現在では「戦いの9原則」がアメリカ陸軍及び陸上自衛隊に用いられています。
今回は、このシリーズの第1回目として、軍事学における考えの基礎とも言える戦いの9原則を紹介していきます。
①目標の原則
軍隊に限らず組織を闇雲に動かしても、ただ時間と資源を浪費するだけで、何も生みません。
組織が1つの有機的集合体として機能を始めるには「目標」が必要なのです。
目標の原則は、この大切さを説く原則です。
即ち「何をすべきか、何をしてはいけないのか、組織に明確な目標を与えよ」ということです。
目標が曖昧になった結果、迷走した歴史上の事例は多く存在します。
例えば太平洋戦争中の沖縄地上戦では現地司令部は「1日でも長く防御戦闘を行う」という方針により敵軍将校からも後に天晴れと言われるほどの巧みな防御戦闘を行いました(嘉数高地防衛戦などは、防御戦闘のお手本と言われるほどです)。
しかし上級司令部(大本営)から防御は弱腰であり「積極的な攻勢に出よ」と命じられた為、目的の無い総攻撃により大損害を出しています。
防御に徹するか、攻勢に出るか、目的を見失った結果、大きな損害を出したのです。
②簡明の原則
どんなに優れた目標や作戦も、それが共有されなければ意味がありません。
特に時間が差し迫った状況では、如何に短時間で組織としての目標を共有するかというのは非常に重要な事項となるでしょう。
簡明の原則は「目標や指示は出来る限り簡潔明瞭にまとめろ」という原則です。
よく「話が長い割に中身が無い」「話が長すぎて、何処が重要なのかわからない」というのがあります。
こういったシンプルさを欠いた目標や指示は解釈の相違や相互の認識統一を妨げるだけで、組織の行動には害にしかならないということです。
③攻勢の原則
サッカーの試合などで「ボール支配率」という表示があったり、解説でも「今は相手チームに圧されていますね、ここは耐えたい」というのをよく聞きます。
攻勢の原則とは即ち「戦いの主導権を自分の手に収めよ、相手に主導権を握られてはならない」という原則です。
これはスポーツをやっていた方ならば、重要性がとてもよく分かるのではないかと思います。
勿論、相手も主導権を握るために必死ですから、自分が主導権を握るには他の原則も組み合わせて先手を打つ必要があるのは言うまでもありません。
④集中の原則
軍事においてランチェスター交戦理論というのがあります。
簡単に言うと、兵力の優勢の差は一次方程式ではなく二次方程式により決まるという内容です。
つまり1箇所に兵力を集中して敵との兵力差が大きければ大きいほど、より効果的な戦闘が行えるということ。
集中の原則は「最も重要な場所を見極めて、集中的に兵力や資源を投入しろ」という原則です。
会社でも一番大事なプロジェクトには予算と人員を集中的に投入しますが、これも「集中の原則」であると言えます。
⑤節用の原則
節用の原則は、まず第一に「遊兵を作らない」=「全戦力を有効的に活用せよ」ということを謳っています。
人員も資源も有限である以上、その全てが目標の達成に寄与しないということは無駄以外の何者でも無いということです。
このように書くと総員攻勢に回して「後方軽視」にすべきなのかと言われそうですが、重要なのは「目標を達成する事」です。
目標達成の為に必要な人員であれば、そこにはしっかり人員や資源を投入するべきであると言えます。
⑥機動の原則
プロイセンの軍人であり軍事研究者でもあるクラウゼヴィッツは戦場において「速さ」が非常に重要な要素であることを説きました。
運動エネルギーの方式、1/2*m*V^2
これは戦場においても通用する原則であり、数で劣っていても敵より速くことで、その数的劣勢をカバーすることは可能だということです。
機動の原則は「兵力を適切に機動させることで有効に用いる」ことを説いた原則です。
動き回ることで、相手に不利な戦況を強いて主導権を握る(攻勢の原則)、敵の弱点に兵力を集中投入して一時的に大きな戦力差を得る(集中の原則)といった、他の戦いの原則に通じるような状況を作り出すことも出来ます。
⑦統一の原則
会社でよくありがちな内容として「同じ案件に対し、複数の人間から違う事を言われた」「自分は誰の指示で動いてるのか分からない」というのがありますが、軍事の世界においては「1つの作戦において、最高責任者は1人だけ」というのが徹底されています。
例えば師団規模の作戦を行う場合、師団長は部下の参謀(幕僚)に情報収集や作戦計画作成の指示を出しますが、参謀は計画を作成することは出来ても基本的に部隊へ命令を出す事が出来ません。
参謀が出した作戦計画を「よし、これで決定する」と言った時点で、師団長が部下の各部隊長に命令を出すのです。
統一の原則は、このように「指揮権限は統一せよ」という重要性を説いた原則です。
⑧奇襲の原則
古来より最も敵に対し優位に立つ事が出来るのは「奇襲」、すなわち相手の想像を凌駕する方法により攻撃を加えることです。
「目標の原則」で述べた通り、組織は指揮官の指揮の下、目標を持って初めて1つの集合体としての機能を発揮します。
監督の指示無しに皆がボールを追い掛け回してたらサッカーは出来ませんし、指揮者無しで各々が勝手に楽器を鳴らしてるオーケストラは不協和音でしかありません。
また戦いにおいて、敵指揮官を精神的に揺さぶり混乱させるというのは非常に重要であると言われています。
奇襲の原則はこのように「相手の意表を突いて、自軍に圧倒的優位な状況を作り出せ」という重要性を説いた原則です
⑨警戒の原則
奇襲が自軍にとって非常に危機的な状況になってしまう以上、簡単に奇襲を許すわけにはいきません。
その為、相手に奇襲を許さないために、常に警戒を怠るなというのが「警戒の原則」です。
常時、情報収集を怠らない、最新の情報を入手しておき、業界動向に敏感になっておくというのはビジネスにも通じるものがあるのではないでしょうか。
以上が、戦いの9原則です。
一見、仕事には無縁に思われるかもしれませんが、ところどころにも書いた通り「組織としての行動」という点においては共通する部分が多々あります。
人類が長年蓄積してきた経験則を纏め上げた戦いの9原則は、叡智そのものなのです。
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