領海を空から見張る。海上自衛隊・固定翼哨戒機部隊
自衛隊の航空機というと、どうしても対領空侵犯措置にあたる戦闘機部隊の活躍が目立ちますが、広大な領空・領海を抱える我が国においては、海の見張りも欠かすことが出来ません。
特に水面下に潜む潜水艦は、海の警察・海上保安庁の保有する機材では対処する事が困難です。
今回は、日本の領海を空から見張る、海上自衛隊の哨戒機部隊を解説していきます。
固定翼哨戒機部隊とは
地上の航空基地を拠点として、輸送機・ナローボディ旅客機クラスの機体を用いて任務にあたる飛行隊です。
海上自衛隊では、主力機としてP-3Cオライオン、更に現在は国産のP-1が順次調達中。
また過去にはP-2Jなども運用されていました。
海上自衛隊の固定翼哨戒機部隊は全国に4拠点。
津軽海峡、宗谷海峡など北日本の要所を担う青森県 八戸・第2航空隊
日本海・太平洋をくまなく見張る神奈川県 厚木・第3航空隊
対馬・大隈など九州周辺を担う鹿児島県 鹿屋・第1航空隊
近年、安全保障上、重要度を増す沖縄県 那覇・第5航空隊
この4個航空隊で日本の領海を全てカバーしていることになります。
なお第4航空隊が現在のところ欠番となっていますが、縁起が悪いから云々という話ではなく、つい最近までは存在したのです。
1963年結成、2008年に解隊するまで約半世紀に亘り北の海を見張っていました。
哨戒機の任務
従来「対潜哨戒機」という名称が付けられていた通り、最も重要な任務は我が国の領海を脅かす外国の潜水艦に対する警戒です。
水中に潜む潜水艦を目視で発見することは、浮上航行中以外は困難なため、主に空中から投下するソノブイを用いた「聴音」により潜水艦を探すことになります。
ソノブイは集音機+送信機(アクティブ式は発信機も)がセットになったもので、拾ったデータを哨戒機へと送信するものです。
なお平成28年度調達資料だけでもHQS-15、HQS-21D、HQS-43、HQS-13-G-1と4種類のソノブイの調達が確認されています。
ちなみにソノブイですが、基本的に「使い捨て」です。
かといってプカプカ浮かんでいるのを何処ぞの隣国に回収されてもいけないので、一定時間経過後に自沈するように設計されているようです。
ソノブイは、潜水艦を捜索するために航空機から海面に投下される器材であり、投下後、海中に吊り下げられる受波器等により潜水艦の発する音の聴取等を行った後、一定時間経過後に自沈機構が作動して海中に沈下するものである。
http://report.jbaudit.go.jp/org/h18/2006-h18-0474-0.htm
お値段は安いもので1本約10万円(パッシブ式)、高いものは1本100万円ほどするようですが、これは「必要経費」と割り切るしかないでしょう。
4本入りの箱が5箱
ここに積んであるだけで200万円…
なおソノブイですが、意外と日常生活に馴染みのあるメーカーが作っています。
オフィスの電話機などでよく見かけるOKIのマーク「沖電気」です。
また、ソノブイだけに限らず、磁気による探知も合わせて実施されます。
MADブームといわれるものがそれで、哨戒機の最後尾に長い棒のように装着されているのが基本です。
原理としては「巨大な金属の塊が近くにあれば、磁気に乱れが生じるのでそれを検知する」という非常にシンプルなものですが、潜水艦自体が水面近くに浮上している必要があること、また哨戒機もギリギリまで高度を落とす必要があることから、MADブームによる探知は非常に高い技量を必要とします。
ちなみにP-3Cのパイロットさんの間では「プロペラに波飛沫が掛かるまで高度を落とせて1人前」なんて言葉もあるそうで(^ ^;)
しかし近年の安全保障体制の変化により哨戒機も潜水艦だけを見張っていればいいというわけにもいかず、海上自衛隊では20年ほど前から「対潜哨戒機」という名称を「哨戒機」に変更しています。
統合幕僚監部発表の外国艦艇動向を見ると分かりますが、水上艦艇の発見・追尾などにおいても固定翼哨戒部隊が活躍している機会が非常に多く、また能登半島沖の北朝鮮不審船事案においても八戸航空基地所属のP-3Cが不審船発見の第一報告者となっているなど「領海の総合的な航空パトロール」としての役割も強く求められてきています。
哨戒機はチームワーク
海上自衛隊のパイロットは、航空自衛隊のパイロット以上に「チームの責任者となる」という意識を強く植え付けられると言われます。
一般に哨戒機1機に乗り込むクルーは11名。
機長(PIC)、副操縦士(Co-Pi)、戦術航空士(TACCO)、機上整備員①(FE)、機上整備員②(FE)、航法通信員(NAV/COM)、ソナーマン1(SS-1)、ソナーマン2(SS-2)、レーダーマン(SS-3)、機上電子整備員(IFT)、機上武器整備員(ORD)
全員が1つのチームとして動くことで、初めて哨戒機としての機能を果たせるため、チームワークは非常に重要となるのです。
但し哨戒機の変わった点として「機長が必ずしも最高責任者ではない」ということがあります。
これが「戦術航空士」、通称TACCO(タッコ)と言われる職種。
哨戒機の指揮官として、哨戒飛行パターンの指示、集めた情報に基づく判断などを担うため、操縦士である機長よりも上位の指揮系統に置かれます。
(機長に指示を出すことも当然あるため)
反面、操縦士に関する知識も必要とされるので、TACCOは海上自衛隊の初等操縦士課程修了者から選出され、操縦士と同じウィングマークを身に付けます。
哨戒機ならではの非常に特殊な職種なのです。
哨戒機部隊の今後
平成29年度の防衛白書によればP-3Cは現在62機を運用中。
しかし厚木の第3航空隊が既にP-1への更新を完了するなど、今後哨戒機の主力はP-1へと移行していくものと思われます。
またP-1には対艦ミサイルなどの高度な運用能力も付与されています。
先日、長距離巡航ミサイルの導入なども報じられましたが、今後の安全保障政策において、このP-1のミサイル運用能力がどのように扱われていくかという点も、非常に興味深い点であります。
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