エンジンから火が、けど痕跡は見当たらず。どういうことか。
先日、9月27日に羽田空港で日本航空の737がエンジンから火のようなものが出たということで離陸を中断。
その後、点検するも異常が無かったというニュースがありました。
「火を吹いたのに異常なし、ってどういうことなんだ?飛行機って怖いのでは」と思われるかもしれませんが、原理を知ると全く不思議なことではありません。
ブログの趣旨からは少し外れますが、解説していきます。
炎の正体は何なのか
今回の件に関して言えば「燃料が燃えている炎」かと思われます。
「いや、燃料ってエンジンの中で燃えるんでしょ!外で燃えるのおかしいでしょ!」と思われるかもしれませんが、一定の条件を充たした場合に外で燃焼することも十分に起こりえるのです。
まずジェットエンジンの構造ですが
前から順に吸気→圧縮→燃焼→タービン→排気と進みます。
空気を高温・高圧に圧縮して、そこに燃料を吹きかけることで燃焼。
その燃焼ガスをタービンブレードで回転力に変えて、更に残りを後方に噴出することで推進力とします。
一般に噴射された燃料はエンジン内で全て燃焼して、後方から排出される際には排気中に燃料は残っていません。
・・・が、何らかの理由で燃料が全て燃焼できずに排気中に残る事があります。
(燃料噴射弁のコントロールなど)
この燃料は高温・高圧に晒されており、発火点を超えている場合は火種が無くても燃焼できる状態にあります。
しかし「燃焼」には1つだけ足りません。酸素が無いのです。
可燃物、発火源(この場合は高熱)があっても、酸素が無ければ燃焼は起きません。
ジェットエンジンの場合は吸入酸素量に対して燃焼に寄与するのは2~3割なので酸素は本来十分にあり、これがあるのでアフターバーナーも可能なのですが、何らかの理由で燃料が過大に供給されれば酸素不足になることは十分あり得ます。
つまり酸素さえあれば燃焼を始められる状態の燃料がエンジンノズルから噴出されます。
しかしエンジンの外に放出されれば、そこには大量の酸素が存在します。
またターボファンエンジンでもジェット排気の周りにはファンで送られてくる空気流があるので、そこは十分な酸素を有しています。
可燃物と発火に必要な温度は満たしているので、酸素さえ供給されれば燃焼反応が起きるのです。
なので、エンジンから出た炎の正体は
「エンジン内で燃焼できなかった余分な燃料が、外に出た瞬間に酸素を得て燃焼反応を起こしたもの」
ということになります。
戦闘機用のエンジンでは、排気温度が高いためか結構頻繁に炎が出ています。
(アフターバーナーとは別)
対して旅客機用のエンジンでは高バイパス比で排気温度が低いためか、この現象が起きる事は稀です。
しかし原理上は同じですので、条件さえ揃えば炎を生じる現象が起きても何ら不思議ではありません。
自動車のエンジンでも炎は出る
ジェットエンジンと自動車のエンジンは形も構造も全く違いますが
「燃焼によって生じた流体を、作動流体としてそのまま使う」
という点においては基本的に一緒です。
つまり吸気→圧縮→燃焼→排気の工程は変わりません。
燃焼によってピストンを押し下げ往復運動を回転に変えるのが自動車のエンジン、燃焼ガスをタービンで回転力に変え更にその噴出により推進力とするのがジェットエンジンという違いだけです。
自動車のエンジンでも燃料噴射や空燃比調整に狂いが生じた場合や点火タイミングのズレなどが起きた場合、未燃焼の燃料が排気系統に漏れだすことがあります。
それがマフラーの高熱などに晒されて発火点を超え、更に酸素が供給されると燃焼。
マフラーから炎が出る、または破裂音が響くことがあります。
俗に「アフターファイヤ」と呼ばれる現象です。
(改造などをしていないのに起きているならすぐに点検が必要な状態です、念の為)
飛行機のエンジンだから特別に考えがちですが、実際はすごく身近なところでも起こりえる現象なのです。
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