P-3Cの無償譲渡を考える
報道などにある通り、海上自衛隊の使用するP-3C哨戒機をマレーシアへ無償譲渡する計画が進行中とのこと。
すでにTC-90をフィリピンに貸与するという事例はありますが「無償譲渡」となると初の事例となります。しかし、この無償譲渡、実は現行法では不可能なのです。
そのため、今後の国会で法改正を待ってから、実際に譲渡することになります。
「使わなくなったものだから、いいんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、なかなかにややこしい、その辺の事情を解説していきたいと思います。
現行法では自衛隊の装備は無償提供出来ない
自衛隊の装備に限った話ではないのですが、日本の財政法は次のように定められています。
財政法 第九条
国の財産は、法律に基く場合を除く外、これを交換しその他支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。
つまり「国の持ち物を売ったり、貸し出したりするなら、見合った対価を要求しないとダメ」という、まぁ当然と言えば当然の法律です。
自衛隊の装備は基本的に全て国の予算で買った国有財産ですので、当然財政法が適用されます。
フィリピンに渡ったTC-90の場合、元が民間のビジネス機ですから「中古市場」が存在します。
中古でも価値があると市場で認められる以上、それを「無料」で渡すと法律に引っ掛かるので苦肉の策で「貸し出し」という形になったわけです。
ちなみに、自衛隊の用途廃止された戦闘機や、その一部が飾られていたりするのをよく見かけますが、あれは「無償」または「格安」で譲られているそうです。
恐らくですが「耐久寿命を超えた戦闘機の中古価値」など売買事例は無いに等しいので、値段を付けようがないのではないかと。
なので「同じ重量のスクラップ」などの価格が適用されるのではないかなぁと思います。
今後の法改正は
この問題点をクリアするために、今年度の国会では自衛隊法の第116条の3として
開発途上地域の政府に対する不要装備品等の譲渡に関わる財政法の特例
開発途上国の政府から自衛隊の装備品譲渡を求められた場合、防衛大臣は、自衛隊の装備品で用途廃止されたもの、または不要となったものを、市場価格よりも安価で売却、または譲渡してもよい。
といった旨の内容が追加される予定になっています。
自衛隊法には、自衛隊の運用をスムーズにするために、色々と適用を除外する特例措置が設けられています。
例えば船舶法、航空法などが有名なところです。
この特例措置の1つとして、途上国へ自衛隊の不要装備品を譲渡する時は、財政法の適用を除外しても良い事にします、というのが主旨となります。
何故、無償?
今回のP-3C譲渡は「海上自衛隊の用途廃止機を整備して、マレーシアへ無償で譲渡する」という内容になるそうです。
まだ飛べるなら、無償でなくてもいいのでは?と思うかもしれませんが、恐らくはロッキードマーティンとのライセンスに関する部分だと筆者は考えています。
P-3Cは川崎重工が生産していますが、ロッキード社(現ロッキードマーティン社)のライセンス生産品です。
米国製のシステムやら何やらも多数積まれているので、米国・米軍の再輸出規制やら何やら、ご意向の伺いや調整無しに通せるわけもなく、今回話が出てきたということは、それなりに両国間で話がまとまってきた段階にあると考えるのが妥当でしょう。
また安全保障上の輸出規制の観点以外に「商売」という部分でも、当然色々と詰めなきゃいけない部分はあるはずです。
なので「自衛隊では使わなくなった=価値の無くなったものを、無償で引き渡す」ということで、LM社や米国政府と調整しているのではなかろうか、というのが筆者の推測です。
実際、米海軍も不要になったP-3哨戒機は払い下げで売却しているので、ライセンス生産している日本も「売却」となると、何かとややこしいでしょう。
日本国政府は東南アジア海域の安全保障強化の為に、装備品の譲渡・売却などを積極的に動く姿勢を見せており、今後も同様の事例に注目したいところであります。
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