ハイテクの塊・10式戦車
陸上戦力の花形である主力戦車。
その中でも、最も最新のモデルである10式戦車。
開発がスタートしたのは約15年前。
74式戦車が、近代装備としては旧式化していく中で
「90式は重量があるし、外国性も総じて重量の問題が大きい」
という問題点をクリアするため、新たな国産開発の戦車として2010年に制式採用されたのが10式戦車です。
ちなみに10式戦車の価格ですが、平成27年度随意契約資料を参考にすると
1両・9億3138万円
平成22年度時点でwikipediaによると9.5億円とのことなので、少し安くなっているみたいですね。
10式とはどんな戦車なのか、解説していきます
120mm主砲を積みながら軽量化
10式戦車の主砲は120mm滑腔砲、各国の主力戦車と同等の砲を搭載しています。
日本製鋼所による国産製造となっていますが、契約情報を確認すると、当該品の製造に関して
独国政府が認めた、独国ラインメタル社との技術援助契約を締結
という文言が確認出来ることから、完全な国産開発品ではなく、90式戦車で使われているラインメタル120mm砲と一部の設計やノウハウを共有しているものと思われます。
(ラインメタル社のそれが西側の実質的な標準規格となっているので、弾薬の共通化という側面もありますが)
120mm砲を搭載している各国の戦車は
M1A2(米国)・・・62トン
レオパルト2(独)・・・60トン
ルクレール(仏)・・・56.5トン
60トン前後の重量があります。
戦車にとって「重さ」は勿論、運動性能を制限する要素になりますが、強力な火砲の反動を相殺するには重量が大きいほうが望ましく、軽い車体で砲だけ大きくしても不安定な射撃になってしまい、兵器としての意味を失ってしまいます。
(拳銃で大口径の弾を撃つのと、ライフルで撃つかの違いと同じです)
しかし10式は120mm砲を搭載しながら、車重を45トン以下に抑え、更に高い命中精度を保っています。
これを実現するには、動揺する車体を発射の瞬間、正確に保持する、非常に高度な足回りの衝撃吸収技術が不可欠であり、この点は自動車産業のノウハウの結晶であるといえるでしょう。
これにより10式戦車は軽量でありながら、高い火力を有する戦車となったのです。
なお、10式戦車では油気圧式の転輪が全てに装備された事で、74式戦車と同様の上下左右に車体を傾斜する機能が存在します。
どれくらい車体が動くのかは、こちらの動画でご確認ください。
ハイテク頭脳
従来、戦車の戦闘力向上は主に主砲の大型化と防御力の向上によって成し遂げられて来ました。
第2世代主力戦車では105mm砲に傾斜装甲、第3世代では120mm滑腔砲に複合装甲といった具合です。
(日本だと74式→90式が、この進化にあたります)
これに加えて火器管制能力の向上による命中精度のアップや、センサー類の充実による警戒能力向上なども、攻撃力の向上に貢献して来ました。
例えば行進間射撃(自車が移動しながらの攻撃)は、火器管制能力の向上で可能になったことの1つです。
動きながら撃てる事で、戦術の多様性は大幅に広がりました。
10式ではさらに横移動の要素を加えながらの、スラローム射撃も可能になっています。
しかし、ここで従来の戦車の進化は行き詰まります。
先ほども書いたとおり、大型の砲を積むには、それだけ大きな重量が必要です。
これは装甲を強化する場合にも言えます。
しかし戦車の履帯・キャタピラは、単位接地面積あたりの重量が一定値を超えると、機動に制限が生じます。
つまり重量を大きくするには、キャタピラの接地面積を増やして重量を分散するしかないですが、そうなると
・幅を広くする
・縦に長くする
のどちらかになります。
ただ、どちらにせよ「車体が大きくなる」ことは避けられません。
つまり重量によるキャタピラの問題を解決しても、今度はサイズの問題が付いて回る、イタチごっこなのです。
主力戦車(MBT)は走・攻・守が全て揃ってこそ意味があるもので、「守」「攻」を強化した結果、「走」が犠牲にするわけにはいきません。
現状60トン前後が、バランスの取れる限界と言われており、戦車の進化は「純粋な火力向上以外」の方向にシフトせざるを得なくなりました。
10式戦車や各国の最新戦車は、これを「C4Iシステムの強化」で成し遂げています。
即ちデータリンク機能の強化です。
90式戦車など第3世代までの戦車戦闘は意外とアナログで、敵の情報などは無線などでやり取りしていました。
対して10式戦車は高度なデータリンク機能を搭載する事で、お互いの情報を常にやり取りしながら「集団」として高い戦闘能力を発揮できるようになっています。
例えば、戦車隊の1両が発見した敵目標の情報を他の車両へリンク→別の車両が死角へ回り込んで、側面から攻撃を仕掛ける。
また情報を画面に表示して、視覚的に戦況の判断を可能にするなど、例えが貧相ですがシュミレーションゲームのようなことが、現実に出来るようになっていると言われます。
つまり個々の能力向上に限界があるなら「連携能力」を強化すれば良いというのが10式の考え方なのです。
スラローム射撃の意味
10式戦車の代名詞とも言うべきスラローム射撃。
大きく車体を切り返しながら、正確に的を射抜く射撃は、しばしば10式戦車の優秀さをアピールする話題となります。
ただ、よく聞かれるのが「スラローム射撃って実際にあんな動きすることあるの?」と。
ここからは筆者の推測も含んでの話になりますが「スラローム射撃」そのものに意味は無いと思います。
例えば総合火力演習の名物でもある「TOT・富士」。富士山の形に同時弾着させる技術は非常に緻密で、陸自特科の砲撃能力を示していますが、現実に考えて「富士山の形に砲撃する」なんてことはないでしょう。
あれは、あくまでも「能力をPRする」という目的です。
スラローム射撃も同じことだと思います。
スラローム走行しながら的に当てるには、高い火器管制能力と車体制御能力が必要です。
その凄さを「分かりやすくPRする」ために「スラロームしながら的に当てる」というのを見せてくれている、と。
そんなPRしなくても、と思われるかもしれませんがPRは諸外国に自国の能力を示すためにも必要なことなのです。
あと財務省から予算もらうために・・・
現在10式戦車は北海道・静岡・大分に配備されています。
また、やはり人気の車両ということで、各地のイベントにも現れる機会が多いです。
お近くで見れる際には、是非見に行ってみては。
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